脱「国境」の経済学
P.クルーグマン『脱「国境」の経済学』読了
アメリカの経済学者、P.クルーグマンの講義録。経済地理学を基に、産業集積の発生メカニズムとそれを国際経済学へ適用することの重要性を説いている。
クルーグマンの主張は、概略次のようなものだ。従来の国際経済学では、各国家を‘点’として捉え、点と点とのやり取りとしての貿易理論を構築してきた。しかし、交易を考えるうえでは、それぞれの国家の地理的な配置を考慮すべきである。つまり、国際経済学を考えるうえで、国家を面としてとらえることが必要であり、さらに面の中の各地域間の関係を考えることが重要ということだ。島国である日本ではなかなか実感がわかないが、国家間の関係以上に、隣接する国家の各地域どうしの結びつきのほうが強いという現実もある。その際に産業集積の、いわば中心と周辺の関係が重要となる。
産業集積がおこるきっかけは地域資源よりも歴史的条件をはじめ、偶発的要因が大きい。偶発的に、産業集積のきっかけがおこった後に、さらにそれが加速される要因としてクルーグマンがあげるものは、
・輸送費
・規模の経済性
の2点を特に重要な点としてあげている。
他地域からの輸送費用が高くつくほど、規模の経済性が発揮されやすいほど、ある地域への産業集積が加速するということはよく考えれば当たり前の話であるが、従来の国際経済学ではあまり議論されてこなかった。これは、地理的条件を理論モデル化することが難しいということが原因であり、理論の単純化の結果として、事物の本質が度外視される。理論の単純化はそれはそれで大事なことであるが、このあたりに現在の経済学の限界があるように思えてならない。その点クルーグマンは、彼自身が理論のモデル化の名手であるということもあるが、易きに流れることなく、社会現象の本質を見極めようとする稀有な経済学者の一人だと思う。
今後、さらにグローバリズムが浸透し、国境の意味が薄れていくほどに、国際経済学は地域経済学へと変貌を遂げていくのではないかと思う。そういった意味でも、僕のような自治体職員が国際経済学を学ぶ必要性は大きいのではないだろうか。
- 作者: ポール・クルーグマン,北村行伸,妹尾美起,高橋亘
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 1994/10/01
- メディア: 単行本
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